17日、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は邦銀として初めて、2050年までに投融資ポートフォリオの温室効果ガス排出量をネットゼロにする「カーボンニュートラル宣言」※1を公表しました。また、同行は昨年度、2040年に石炭火力発電向けプロジェクトファイナンス残高をゼロにする目標を掲げましたが、今回の発表では事業に占める石炭火力発電の比率が高い企業への与信残高に関する目標を開示する方針を明らかにし、コーポレートファイナンスに関する削減目標についても初めて言及しました。国内大手銀行では12日に三井住友フィナンシャルグループ(SMBC)、13日にみずほフィナンシャルグループが同様にサステナブルファイナンスに関する方針を公表しており、国内3大メガバンクの足並みがそろった形になります。
これまで邦銀の脱炭素化に向けた取り組みは世界から後れを取っており、特に石炭火力発電への積極的な投資姿勢が度々問題視されてきました。ドイツの環境NGOウルゲバルドなどの調査※2によると、2018年10月から2020年10月までの石炭産業への融資額は、日本の3大メガバンクが世界のトップ3を独占していました(図1参照)。パリ協定の1.5℃目標を達成するためには石炭火力からの早期脱却が重要であり、Climate Analyticsが2019年に公表した報告書※3では、世界全体で2040年までに、OECD諸国で2031年までに石炭火力を全廃する必要があるとしています。これらの指摘を無視する形で邦銀大手3社は石炭火力へのプロジェクトファイナンスを継続しており、国内外のNGOなどからの多くの批判を受けていました。3月には国内NGOの気候ネットワークがMUFGに対して、石炭火力事業などへの投融資についてより踏み込んだ目標を定めて開示することを求める株主提案を提出していました。
今回の各行の融資方針の見直しは、グローバルな脱炭素化の潮流に加え、株主をはじめとするステークホルダーからのクリーンな投融資への転換を求める強い要請に応じた結果であると言えます。今後はコーポレートファイナンスに関する短中期目標の設定や石炭火力をはじめとするセクター方針の見直しなどの対応が各行で進んでいくことが期待されています。銀行各社が脱炭素社会への移行リスクを正しく評価し、ポートフォリオの見直しを進めることで、投融資先である企業の脱炭素化に向けた取り組みが益々加速していくことが予想されます。
出所・注釈
※1 三菱UFJフィナンシャル・グループ、「MUFG カーボンニュートラル宣言」について」、2021年5月17日https://www.mufg.jp/dam/pressrelease/2021/pdf/news-20210517-003_ja.pdf
※2 Urgewald, Press Release “Groundbreaking Research Reveals the Financiers of the Coal Industry”, 2021 https://drive.google.com/file/d/1HXtSmgxmEeZ4SmZtNilOwCVkHnBTAuB0/view
※3 Climate Analytics, “Global and regional coal phase-out requirements of the Paris Agreement: Insights from the IPCC Special Report on 1.5°C”, 2019 https://climateanalytics.org/media/report_coal_phase_out_2019.pdf