再エネ電力の調達方法~PPA・VPPAなど~

再エネ

カーボンニュートラル達成に向けて、電力の脱炭素化が求められています。電力セクターは他の産業セクターと比較して太陽光や風力など、脱炭素技術が既に確立されており、短中期的な社会の脱炭素化に非常に重要な分野とされています。5月開催されたG7首脳会合にて、各国が「2035年までに電力部門の全部または大宗を脱炭素化する」ことに合意するなど、その重要性は疑いのないものとなっています。

発電時のCO₂排出量ゼロを達成するためには再生可能エネルギーの導入拡大が必要不可欠となります。近年、再エネ調達の手法としてPPAやVPPAなどが注目されていますが、その詳しいスキームや効果については広く認知されていない可能性があります。本記事では、そもそも再エネ調達にはどのような方法があるのかを紹介するとともに、PPA・VPPAなどの複雑なスキームについて詳しく解説していきます。

再エネ電力調達の方法

IRENA*1では下図の通り、企業による再エネ電力調達の方法を4つに分類しています。①は再エネ電力証書の購入、②はPPA(Power Purchase Agreement: 電力購入契約)、③は小売電気事業者の「グリーン電力メニュー」、④は自己調達となっています。各調達方法の特徴やスキームについて、順を追って解説していきます。

図1 再エネ調達方法の種類

再エネ電力証書の購入

再エネ電力証書は再生可能エネルギーで発電されたことを証明する証書を指します。電力そのものの調達とは別に「再エネの価値」として切り離された再エネ電力証書を購入することで、再エネを調達したとみなすことができます。日本においては非化石証書(再エネ指定)*2 やJ-クレジット(再エネ由来)、グリーン電力証書などを活用することができます。

再エネ証書の購入は従来小売電気事業者のみが可能でしたが、2021年11月の非化石取引市場の見直しにより、一般の需要家も市場を通して購入することができるようになりました*3。今後の需要拡大により価格が上昇していくことが想定されますが、グリーン電力メニューへの切り替えと同様、比較的ハードルが低い調達方法と思われます。

PPA(Power Purchase Agreement: 電力購入契約)

PPA(コーポレートPPA)は発電事業者と需要家の間で電力購入契約を結び、再エネを直接調達するスキームとなります。需要家は発電事業者との間で電力を一定期間、固定価格で購入する契約を結びます。

PPAは屋根上の太陽光パネルなど、発電設備が消費地と同じ敷地内にあるケースと、敷地外の発電所から送電線を経由して調達するケースに分かれます。前者はオンサイトPPA、後者はオフサイトPPAと呼ばれます。現在はオンサイトPPAが主流となっていますが、敷地内の面積は限られていることもあり、今後の再エネ供給拡大のためにはオフサイトPPAの更なる活用が期待されています。

オフサイトPPAのスキームを図2に示します。需要家は電力系統を介して敷地外の再エネ発電設備から電気を直接調達します。

図2 オフサイトPPAのスキーム

PPAは発電源の明確な再エネを長期にわたり安定的に調達できることに加え、発電設備への初期投資が不要である、需給のバランス調整(バランシング)の義務が発生しない(電力会社が請け負う)などのメリットがあります。一方で、発電事業者の投資回収のため、固定価格での長期契約が必要となり、再エネ価格の変動リスクも需要家が負う形となります。

なお、国内では発電所からの直接調達は現行の制度上不可となっています(ただし、オンサイトPPAは可能。)現在オフサイトPPAの取組として企業などが公表しているものは正確には「PPAモデル」であり、発電所と需要家の間に小売電気事業者が介入するスキームとなっています。また、再エネ賦課金はオンサイトPPAの場合はかかりませんが、オフサイトPPAの場合は小売電気事業者を介して供給される電力を購入するスキームであるため、支払う必要があります。

グリーン電力メニュー

再エネ調達の方法として最も一般的と思われるのが小売電気事業者の「グリーン電力メニュー」を通した電力購入です。一般の電力と比較して若干割高になるケースが多いと思われますが、電力会社やメニューを切り替えるだけで比較的簡単に再エネを調達できることができます。

再エネ電力メニューには下記のような種類が存在しますが、いずれもRE100が規定する再エネ調達に該当します。

再エネメニュー:非FIT再エネ/大型水力
②FIT再エネメニュー:FIT再エネ電力+環境価値
③実質再エネメニュー:一般電力+環境価値

一方、再エネ指定のない非化石証書を付加する「ゼロエミッション」メニューなどはRE100非対応となり、再エネ価値を訴求することは不可となります。

自己調達

自己調達は太陽光などの発電設備を自社で設置・保有し、発電した電力を自家消費するスキームを指します。例えば、工場の屋根に設置した太陽光パネルで発電した電力を同じ工場で使用したり(オンサイト)、離れた敷地内にある太陽光発電所から送電線を経由して自社の事業所へ送電したりするケース(オフサイト)などが想定されます。

自己調達による方法は発電設備への初期投資がかかることやバランシングの義務が発生するなどのデメリットがある一方、ランニングコストが維持管理費を除くと基本的にゼロであるため、長期的には経済的にもメリットが大きい手法であると考えられます。また、オフサイトPPAと異なり小売電気事業者を介していないため、再エネ賦課金がかからないことも特長の1つとなります。

PPAと自己調達との違い

PPA自己調達は時折その言葉が混在して使用されるケースも見受けられますが(自己調達型PPAなど)、基本的には異なるスキームとなります。自己調達はあくまで事業者自身が自社保有の設備で発電した電力を調達・消費するのに対して、PPAは第三者が設備を保有し、発電した電力を事業者が購入・消費するスキームとなります。これはオンサイト、オフサイトを問いません。

また、排出量を報告する際、自己調達の場合はスコープ1、PPAの場合はスコープ2となります。例えば自社工場の屋根に設置している太陽光パネルからの電力を同じ工場で使用しているケースでも、太陽光パネルを第三者が保有し、自社は屋根貸しのみを行っている場合は、電力を購入しているためスコープ2に該当します。

VPPAについて

VPPA(Virtual Power Purchase Agreement: 仮想電力購入契約)はPPAと同様に再エネ拡大のための新たなスキームとして欧米を中心に普及しており、今後の更なる展開が期待されています。PPAは発電事業者と需要家の間で電力購入契約を結びますが、VPPAでは(電力そのものではなく)「環境価値」を一定期間、固定価格で購入する契約を結びます。電力の直接的な調達は発生しないため、「Virtual: 仮想」PPAと呼ばれています。

VPPAのスキームを下記に示します。発電所事業者は発電所が所属する電力市場へ市場価格で再エネ電力を販売し、需要家は使用場所所在地の市場から電力を調達します。そして、合意した固定価格と発電側の市場価格との差額を清算します。例えば、図3のように固定価格が「10円/kWh」で発電側市場価格が「9円/kWh」である場合需要家から発電事業者へ「1円/kWh」を支払うことになります。一方、図4のように発電側市場価格が「11円/kWh」である場合、反対に発電事業者から需要家へ「1円/kWh」を支払う必要があります。

図3 VPPAのスキーム(固定価格>発電所所在地の市場価格の場合)
図4 VPPAのスキーム(固定価格<発電所所在地の市場価格の場合)

VPPAはあくまで「環境価値」の購入契約であるため、電力そのものは引き続き小売電気事業者等から購入することとなります。従って、従来からの電力会社を切り替えることなく、実質的に再エネを調達できるメリットがあります。例えばテナントとしてビルの一角を借りている事業者が再エネを調達したい場合、ビルのオーナーが電力の調達先を変更できない場合でもVPPAにより再エネ(証書)を購入することができます。また、同じ地域の電力系統にある必要がないため、遠隔地からの調達も可能となります。

国内では当スキームが「商品先物取引法」に該当する可能性があるため、小売電気事業者を介した取引形態とする方向で検討が進められています。国内ではVPPAを活用するための体制がようやく整ってきた段階であり、制度設計等に関する更なる議論が求められています。

再エネの追加性とは

これまでいくつかの再エネ調達の方法を紹介してきましたが、どの調達方法が望ましいかを考える際のポイントとして「再エネの追加性」という概念があります。これは、事業者が上記の方法により再エネ電力を調達したことによる直接的な結果として、新たに再エネの容量が追加されたかどうかという観点です。例えば、自己調達やPPAなどでは、新たに発電所を建設し、社会全体の再エネ発電量が増加することが見込まれるため、「追加性」が高い方法とされています。一方で、小売電気事業者からの購入や再エネ電力証書の購入は、再エネ需要の高まりにより間接的に再エネを増加させる作用が電力会社などに働くことが想定されるものの、直接的な発電量の増加にはつながらないため、「追加性」が低い方法とされています。

再エネの追加性

①自己調達>②PPA>③グリーン電力メニュー>④再エネ電力証書の購入

まとめ

本記事では再エネ調達の方法について紹介してきましたが、どの方法も難しいと判断して再エネへの切り替えが進まない企業も少なからず存在します。たとえ再エネメニューへ切り替えが手続き上簡単であったとしても、特に電力多消費産業などでは、わずかな電力価格の高騰が経営に大きな影響を与えることが想定されます。PPAやVPPAは今後の更なる活用が期待されていますが、現状ではハードルが高いと考える企業も少なくないようです。先進企業の事例を広く展開したり、再エネをより導入しやすくするための政策提言を行ったりするなど、企業が主導して再エネ拡大に取り組んでいくことが期待されます。


出所・注釈

*1 IRENA(2018), Corporate Sourcing of Renewables: Market and Industry Trends, p16
*2 RE100では発電所が特定できる「トラッキング付非化石証書」が使用可能となっている。
*3 従来の非化石証書市場が再エネ価値取引市場と高度化義務達成市場の2つに分割され、需要家は再エネ価値取引市場へ参加することで、FIT非化石証書を購入できるようになった。一方、非FIT証書(再エネ指定または指定なし)については高度化義務達成市場にて取引が行われ、現行の制度では小売電気事業者のみ購入可能となっている。

参考

中山琢夫(2020)、PPA(Power Purchase Agreement)による再エネ電源開発-コーポレート PPA を中心に-
企業 省エネ・CO₂削減の教科書、【図解】オフサイトPPAとは?オンサイトPPA・自己託送との違い

タイトルとURLをコピーしました