ジャパンモビリティショーでの所感

業界

11月5日まで東京ビックサイトで開催されたジャパンモビリティショーに参加してきました。前進の「東京モーターショー」が2019年に開催されて以降、コロナの影響などもありしばらく開催が見送られていましたが、今年が4年ぶりの開催となりました。EVをはじめとするエコカーの開発状況や各社の戦略を調査すべく、各自動車メーカーの担当者にインタビューさせていただきました。

自動車メーカーへのヒアリング

三菱自動車

Q:次世代モビリティの開発方針について。
A:EVの開発を進めてるのは軽自動車のみ。その他の車種はPHEVとなる。

Q:PHEVはガソリン車として走らせることもでき、EVよりもCO₂削減効果が低いとの見方もあると思うが、なぜPHEVにこだわるのか。
A:今はバッテリー技術が不足している。EVで航行距離を伸ばすためには大きなバッテリーが必要で、車体も大きくする必要がある。また、バッテリーをこまめに充電しないといけないなど、利用者にある程度不便を強いるところがある。EVも走行時以外はCO₂を出す。「EVだけがグリーン」など、絶対的な正解はない。テスラや中国メーカーは政府が戦略的にEV推進をしていて、必ずしもカーボンニュートラルを意識した戦略ではない。

Q:ヨーロッパでは完全EVの動きもあるようだが。
A:確かにヨーロッパでそのような動きもあったが、今は落ち着いている。もし政策変化があったらその時に対応する。

頑なにPHEVにこだわる会社ということもあり、EV関連の質問に対して警戒感があるように感じました。おそらく「なぜEVでないのか」といった同様の指摘が外部から少なからずあるものと思われます。ただ、確実に言えることは「カーボンニュートラルの潮流は必然である」ということ。自動車業界を取り巻く大きなうねりの本質を理解し、カーボンニュートラル時代に本当に必要とされる技術開発を戦略的に進めることが期待されます。

YAMAHA

Q:現在開発を進めている次世代モビリティについて。
A:水素エンジンを動力とする二輪車の開発を進めている(燃料電池ではない。)

Q:二輪車のような小型車の場合、EVの方が効率は良いということはないか。
A:EVだけでなく、色々な選択肢があった方がリスクに対応ができる。現在は二輪の水素エンジンの開発が中心だが、将来的には別の(より大きな)モビリティに技術展開していくことを見据えている。当社は「原動機」が強みであるので、その技術を活かしていきたいという思いもある。

Q:実用化の目途はあるのか。
A:今のところない。現在は二輪車で水素エンジンの実証実験を行っている。

LEXAS

Q:EVとFCVの開発を両輪で進めているのはなぜか。
A:一般の乗用車については2035年に新車販売を100%EVとすることを目指している。一方で、山道を走る車などの特殊な車に関しては、(燃料が切れるリスクなどを想定して)水素を燃料とするのが適当であると考えている

Q:EVの主なターゲット層は?
A:北米やヨーロッパ、アジア、日本などの高収入層をターゲットにしている。EVは充電インフラ整備が進んでいる地域で受け入れられやすいため、先進国をはじめとする地域が必然的にターゲットとなってくる。

言わずと知れた高級車ブランドのLEXASですが、やはり高所得者向けの高級車としてEVを販売していく方が(一般層をターゲットとした乗用車よりも)受け入れられやすい側面があるのかと感じました。LEXASでは(国内メーカーが共通で使用できる)充電インフラの普及も進めているとのことでしたので、EV普及の牽引役となることを期待しています。

HONDA

Q:次世代モビリティの開発方針について。
A:EVとFCVの両輪で進めている(電動車と表現。)EVはバッテリー技術の向上が課題。走行距離を伸ばすためには大型のバッテリーが必要になってくる。一方で水素は乗用車だけではなく、バスやトラックなどの大型のモビリティにも活用できる技術。そこも見据えて開発を進めていく。

Q:LEXASがEVチャージャーの開発を独自に進めていると聞いたが、貴社はどうか。
A:テスラのEVチャージャーの速度が速い(技術力が高い)ため、中々難しいと感じている。アメリカの西海岸(カリフォルニアなど)では、スーパーの入り口に一番近い位置にテスラ専用ステーションがある。

BYD

Q:貴社製EVの特徴について。
A:低価格でEVを提供できている点が特徴の一つ。もともとバッテリーのメーカーであったため、安いEV用のバッテリーを製造できる点が価格面でのアドバンテージにつながっている。一方で車に関する知見(乗りやすい車など)はもともとなかったため、他のメーカーと協同して開発を進めてきた。

Q:テスラ製のEVとの違いは?
A:1つ目は価格が安いこと。テスラは(ある意味無駄なところに)お金を使って高級感を出している。スマホでいうとテスラはiPhone、BYDはandroidのような立ち位置。2つ目はお客様対応に力を入れていること。テスラは基本オンラインでしか購入できない。一方、BYDは店舗の数を国内でどんどん増やしており、お客様が気軽に相談できる環境を整備している。テスラのスーパーチャージャーは高速で魅力的だが、EVは家でも充電できる。弊社のバッテリーは差しっぱなしでも問題がないので、充電に負担を感じることはないと考えている。

BYD社はもともとバッテリーメーカーであったということもあり、他社と比較してバッテリーの技術が高く、他社が頭を抱えているバッテリーの小型化についてもそこまで負担に感じているようには見えませんでした。

NISSAN

Q:EVはバッテリーが大型になるため小型車をEV化する方が難しいというのは本当か。
A:その通り。スズキやダイハツなど軽自動車メーカーは一人乗用のEVしか開発していない。一方、NISSANはガソリン車から部品が減ったことで生まれたスペースを有効活用することで、軽サイズのEV(SAKURA)の開発に成功した。全固体電池が開発されればスペースの問題の解決も容易になると考える。

Q:充電に手間がかかることがEV普及のネックになっていると感じるか。
A:そう感じる。現時点では充電インフラの普及が十分でない。家庭で充電することもできるが、アパート住まいの人などはチャージャーを設置するのは難しい。また、充電時間が長いことも課題の一つである。全固体電池が開発されれば充電時間の課題も解決される。

Q:テスラの高速チャージャーを導入することで充電時間を短縮できないか。
A:テスラの高速チャージャーはテスラの車しか使用できない。日本でテスラ車はそこまで普及していないので、テスラのチャージャーがそこまで普及することはないと考える。

Q:水素車や燃料電池車の開発を進める予定はあるか。
A:ない。乗用車はEVを中心に開発を進めていく。

Q:EV販売に関する目標はあるか。
A:(EVだけではなく)電動車の販売目標は持っている。電動車にはHVも含まれる。国内ではまだEV需要が低いため、HV
の販売も併せて推進していく方針。

Q:テスラやBYDと比較した際のEVの特徴は。
A:安全性が高い。事故が起きているEVのほとんどは外国製のものである。

個人的に国内メーカーでEV開発が最も進んでいるのがNISSANとの印象です。軽サイズの「SAKURA」は国内で最も売れているEVとのことです。一方で、国内のEV需要が多くないことから、HV車の販売もしばらくは推進していく方針とのことでした。また、全固体電池の開発の重要性を強調されていた点も印象的でした。

各社の脱炭素戦略のまとめ

今回インタビューした企業を中心に、各社の電動化の方針と目標を下表にまとめました。電動化の方針は企業によって様々で、日産やLEXASなどEVを中心に開発を進める企業・ブランドがある一方で、ホンダなどFCVを含め多様な車種の開発を進めるという企業もありました。今回話を伺うことができなかったトヨタも、「電源がグリーンではない地域や充電ステーションへのアクセスが容易でない一部の地域ではEV以外のオプションの方が有効である」との考えのもと、多方面な戦略を展開しているようです。また、水素エンジンに注力するYAMAHAやPHEVを高く評価する三菱自動車など、独自の方針を掲げる企業もありました。このあたりの戦略の差は、会社によって想定する社会シナリオが異なることだけでなく、各社の強みや企業理念などに相違があることも関係しているように思えます。

会社・
ブランド
電動化の方針目標
NISSAN乗用車はEV中心。FCVの開発は進めない。2030年早期に主要市場で投入する新型車すべてを電動車両に(e-POWER*1を含む。)*2
HONDAEVとFCVの両輪。2040年までにEV・FCV販売比率をグローバルで100%とする。*3
TOYOTAEVだけが1つの方法ではない(PHEV、HV、FCVなど)*4
LEXAS一般の乗用車はEV中心。FCVは特殊な車のみ。2035年新車販売を100%EVに。*5
三菱自動車PHEV中心。EVは軽自動車のみ。LCA*6でのCO₂排出量はEVやHVと比較してPHEVが最も少ないと評価。電動車(EV、PHEV、HV)の販売比率を2035年度までに100%とする。*7
BYDEV中心。
YAMAHA水素エンジン車など。

全体的な所感

モビリティの脱炭素化という大きなうねりの中で、自社の持つ技術力やブランド力、市場、企業理念など様々なバックグランドを持つ各社が多種多様な戦略を掲げて取組を進めているという印象を持ちました。社会が求める脱炭素化の方向性と自社の方針が一致する企業は、カーボンニュートラルを全面に押し出した戦略をアピールする一方で、技術力の不足などの理由で社会が求める脱炭素化の方向性に整合させることが難しい企業は、(時にはグリーンウォッシュと言われるような謳い文句も交えて)相反する戦略をステークホルダーに理解してもらうために躍起になっているように思われます。

ただ、確実に言えることは「カーボンニュートラルの潮流は必然である」ということ。気候変動は企業にとっても最大のリスクであり、逆に言えばリスクにうまく対応することで大きなビジネスチャンスを得ることができます。そのビジョンを明確に持っている国や企業が戦略的に脱炭素ビジネスを主導している一方で、大きなうねりの本質を理解できていない企業が業界から取り残されることは間違えないでしょう。

また、今回の訪問では下記のような新しい気づきがありました。

  • 軽自動車のような小型車ほどEV化が難しいという実態がある。また、その原因は航行距離を伸ばそうとするとリチウムイオン電池を大型化せざるを得ないという技術的な障壁である。
  • 電池の充電に手間がかかる(時間がかかる、場所が少ない)ことがEV普及のネックになっている。一般的なチャージャーの場合、充電時間が長い。テスラのスーパーチャージャーは早いが、テスラ車しか使えない。また、アパート住まいの人などは自宅にチャージャーを設置することができない。そのため、充電インフラを充実させることが重要であるが、普及が進んでいない。
  • 航行距離や充電時間などの問題を解決できる全固体電池の開発に大きな期待がかかっている。

各社が口をそろえて言っていたのが、現状のリチウムイオン電池でのEVの限界と、それを打破するための全固体電池の開発の重要性です。乗用車のEVはすでに確立された技術であり、このまま自然と普及していくものと思っていましたが、まだまだ課題があることを各自動車メーカーのご担当者の方から赤裸々に伺うことができました。全固体電池の実用化は夢のような話だという声も聞いたことがありますが、更なるEVの普及とモビリティでの脱炭素化の実現のキーポイントとして、今後の動向をチェックしていきたいと思います。


出所・注釈

*1 e-POWER:ガソリンエンジンとモーターを融合したパワーユニット。ガソリンエンジンで発電した電力を利用し、モーターの力で走行。
*2 NISSAN『クルマからのCO2排出の削減』(閲覧日:2024年4月3日)
*3 HONDA『四輪事業 戦略魅力ある四輪商品・サービスを全世界へ』(閲覧日:2024年4月3日)
*4 TOYOTA 統合報告書2023, p.50
*5 日本経済新聞(2021年12月21日)『レクサスすべてEVに、35年世界販売 まず富裕層を開拓』
*6 LCA:Life Cycle Assessmentの略称。生産から廃棄までの環境負荷を算出して評価する方法。
*7 三菱自動車 サステナビリティレポート2023, p.43

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