SBTネットゼロ基準V2.0とは?従来基準からの変更点をわかりやすく解説

SBTネットゼロ基準V2.0の変更点を解説する記事のアイキャッチ画像。目標設定・実行・評価を5年ごとに繰り返すサイクルを図で示している SBT

2026年6月11日、SBTi(Science Based Targets initiative)は企業向けネットゼロ基準の改訂版である「Corporate Net-Zero Standard Version 2.0」(以下、V2.0)を公表しました※1。2021年に初版が公表されて以来の「全面改定」とされており、目標の立て方から進捗の評価方法まで、多くのルールが見直されています。

本記事では、そもそもSBTとネットゼロ基準とは何かを確認したうえで、従来の基準(以下、V1)から何がどう変わったのかを、できるだけわかりやすく解説していきます。

この記事の要点

  • V2.0は、これまで別々だった「短期目標の基準」と「ネットゼロ基準」を一本化した全面改定版です。
  • 一言でいえば、「目標を宣言する」基準から、「5年ごとに目標を立て、実行し、評価を受けるサイクルを回す」基準へと性格が変わりました。
  • 2027年2月1日に発効し、V1での目標提出は2028年1月31日で締め切られる予定です※1※4。それ以降はV2.0のみが適用されます。

そもそもSBTとネットゼロ基準とは?

SBT(Science Based Targets)とは

SBT(Science Based Targets:科学に基づく目標)とは、パリ協定が掲げる「1.5℃目標」(世界の平均気温上昇を産業革命前と比べて1.5℃に抑える)と整合した、企業の温室効果ガス(GHG)排出削減目標のことです。CDP、国連グローバル・コンパクト、WRI(世界資源研究所)、WWFが共同で設立したSBTiが、企業の目標がこの水準を満たしているかを審査・認定しています。

ネットゼロ基準とは

ネットゼロ基準(Corporate Net-Zero Standard)は、企業が「ネットゼロ」を名乗るための条件を定めた基準で、2021年10月に初版が公表されました。ここでいうネットゼロとは、自社の排出量をまず大幅に削減し、それでも残ってしまう排出量(残余排出量)を、大気中からCO₂を取り除く「除去」によって相殺(中和)した状態を指します。

なお、これまでSBTiの基準は、5〜10年先の目標を定める「短期目標の基準(Corporate Near-Term Criteria)」と、2050年までの長期目標・ネットゼロ目標を定める「ネットゼロ基準」の2本立てでした。V2.0ではこの2つが統合され、1つの基準の中で整理されています※1。

なぜ今V2.0が出たのか

V2.0の大きな特徴は、企業に求める重点を、目標の「設定」から目標の「実行」へと移している点にあります。

V1のもとでは、多くの企業が意欲的な削減目標を設定してきました。一方で、目標を立てた後に「実際にどこまで削減できたのか」「計画どおりに進まない場合、何が障壁になっているのか」を確認する仕組みは十分ではありませんでした。

そこでV2.0では、5年ごとに「目標設定→実行→評価→報告」を繰り返すサイクルを導入し、移行計画の策定や第三者保証、サイクル終了時の評価などを通じて、目標の「中身」と「実行」をより重視する仕組みへと改められました。

V1からV2.0への変更点

主な変更点を一覧表にまとめると、以下のとおりです。

項目V1(従来)V2.0(新基準)
基準の構成短期目標の基準とネットゼロ基準の2本立て1つの基準に統合(その中で、短期目標は全企業に必須、長期目標・ネットゼロ目標は原則任意)
企業区分中小企業(SME)向けの簡易ルートありカテゴリーA(大企業等)/カテゴリーB(それ以外)に再編
短期目標の期間5〜10年5年ごとのサイクル
基準年2015年以降で企業が選択各サイクルで直近の最新データ年を採用
スコープ1・2合算した目標も可(95%以上をカバー)スコープ1とスコープ2で別々に目標設定(各100%をカバー)
スコープ2の目標排出削減目標、または再エネ調達目標(2025年80%・2030年100%)低炭素電力の比率目標、または排出削減目標。証書の利用条件が厳格化
スコープ3総排出量の40%以上なら必須、67%以上をカバーカテゴリーAは必須。排出量の5%以上を占める重要なカテゴリーを対象
長期目標・ネットゼロ目標ネットゼロ基準では必須原則任意(一部の方式を選んだ場合は長期目標が必須)
カーボンクレジット・バリューチェーン外の緩和クレジットは目標達成には使えない。バリューチェーン外の緩和(BVCM)は推奨クレジットを目標達成に使えない点は維持。バリューチェーン外での緩和や資金拠出を評価する「継続的排出責任」の任意認定制度を新設(2035年からの義務化を意図)
移行計画要件なし全企業に策定を義務付け(取締役会の承認が必要)。公表はカテゴリーAに義務付け(目標審査の完了後15か月以内)、カテゴリーBは推奨(スコープ1の目標の方式による例外あり)
進捗の確認少なくとも5年ごとに目標を見直しサイクル終了時の評価を義務付け。カテゴリーAは第三者保証が必要

※V1の内容はCorporate Net-Zero Standard Criteria Version 1.3.1※3、V2.0の内容は同Version 2.0およびその基準文書※1※2に基づきます。

ここからは、特に重要な変更点を1つずつ見ていきます。

変更点① 企業区分が「カテゴリーA/B」に再編

V1では、中小企業(SME)向けに手続きを簡素化した「SMEルート」が用意されていました。V2.0ではこれが廃止され、企業は規模などに応じて「カテゴリーA」と「カテゴリーB」の2つに区分されます※2。

区分主な条件
カテゴリーAすべての国で、純売上高4億5,000万ユーロ以上、または常勤換算の従業員数(FTE)1,000人以上の企業。高所得国では、スコープ1・2の排出量が1万tCO₂e以上の企業や、「貸借対照表2,500万ユーロ・純売上高5,000万ユーロ・従業員250人」のうち2つ以上に該当する企業も含む
カテゴリーB上記に該当しない企業(小規模企業、低所得国の中規模企業など)

ポイントは、カテゴリーAの範囲が「大企業」だけでなく、高所得国の中堅企業まで含まれていることです。日本は高所得国に該当するため、売上高が数十億円規模の中堅企業でも、条件次第でカテゴリーAに区分される可能性があると考えられます。

カテゴリーによって求められる要件は大きく異なります。たとえば、スコープ3目標や基準年データの第三者保証、移行計画の公表は、カテゴリーAには義務付けられる一方、カテゴリーBでは原則として任意とされています(移行計画の公表については、スコープ1の目標の方式による例外があります。変更点⑧で解説します)※2。

変更点② 「5年サイクル」の導入と基準年のルール変更

V1では、短期目標の期間を5〜10年の範囲で企業が選ぶことができました。また基準年も、2015年以降であれば企業が選択できました※3。

V2.0では、目標は5年ごとのサイクルで設定されます。そして各サイクルの開始時に、最新かつ最も網羅的なデータがそろっている直近の年を基準年として採用します※2。つまり、5年ごとに「最新の実績を起点に、次の5年の目標を立て直す」という仕組みです。

身近なたとえでいえば、V1が「最初に決めたゴールに向かって走る」形だったのに対し、V2.0は「5年ごとに現在地を確認し、次の区間の目標を設定し直しながら走り続ける」形に変わったといえます。

さらにカテゴリーAの企業は、基準年の排出量について第三者による限定的保証を受けることが求められます※2。

変更点③ スコープ1:資産移行目標が新設

V2.0では、スコープ1とスコープ2を合算した目標は認められず、それぞれ別々に、排出量の100%をカバーする目標を設定する必要があります※2。

スコープ1の目標は、次の3つの方式から選択します(複数の組み合わせも可)。

  • 絶対量削減目標:遅くとも2050年までに残余排出量の水準まで、直線的に排出量を削減する
  • 排出原単位(強度)の削減目標:セクター別の経路に沿って、生産量あたりの排出量などを削減する
  • 資産移行目標(新設):保有する設備・資産を低炭素なものへ移行していく計画に基づく目標

このうち、排出原単位目標または資産移行目標を選んだ場合は、2050年までの長期目標の設定と、目標審査の時点での移行計画の公表が必要になります。一方、絶対量削減目標を選んだ場合、長期目標の設定は「推奨」にとどまり、移行計画の公表は通常のルールに従います(カテゴリーAは目標審査の完了後15か月以内に公表が必要、カテゴリーBは推奨)※2。なお、移行計画の策定そのものは、どの方式を選んだ場合でもすべての企業に求められます(変更点⑧で解説します)。

また、具体的な年間削減率などの数値は基準本体には示されておらず、別途策定が進められている「Methods, Metrics and Pathways(手法・指標・経路)」文書で示される予定とされています※5。

変更点④ スコープ2:「低炭素電力」と証書のルールが厳格化

スコープ2は、今回の改定で最も実務への影響が大きい分野の1つです。

目標の立て方

V1では、排出削減目標のほか、「再生可能エネルギー電力の調達比率を2025年までに80%、2030年までに100%にする」といった再エネ調達目標を立てることが認められていました※3。

V2.0では、次のいずれか(または両方)を選択します※2。

  • 低炭素電力(LCE:Low-Carbon Electricity)の比率を高める目標
  • スコープ2排出量の絶対量削減目標

ここでいう低炭素電力には、再エネだけでなく、原子力やCCS(Carbon dioxide Capture and Storage:二酸化炭素回収・貯留)付きの電源も含めることができるとされています※1。目安として、発電時の直接排出量が1kWhあたり0.048kgCO₂以下(2035年以降は0.024kgCO₂以下)であることが示されています※5。

なお、カテゴリーAの企業で、電力消費量が年平均20%超のペースで増加する見込みの場合は、排出削減目標の設定が必須となります(比率目標は追加で設定できます)※2。

エネルギー属性証書・PPAの利用条件

エネルギー属性証書(EAC:Energy Attribute Certificate)やPPA(Power Purchase Agreement:電力購入契約)などの市場手段にも、新たな条件が設けられました※2。

  • 電力を使用する地域と同じ「供給可能地域」(電力系統がつながっている範囲)で調達したものであること
  • 運転開始(またはリパワリング)から15年以内の発電設備によるものであること
  • 電力を使用した期間と、証書の発電期間が12か月以内で整合していること

たとえば、電力系統がつながっていない遠く離れた地域の古い発電所の証書を購入し、「再エネ100%」とする方法は認められにくくなります。

時間単位マッチング

さらに、1時間ごとに「電力の使用量」と「低炭素電力の発電量」を突き合わせる「時間単位マッチング」の考え方も導入されました。

たとえば、昼間に発電した太陽光発電の証書を年間の使用量と同じ量だけ購入すれば、年単位では「100%低炭素電力」と計算できます。しかし時間単位で見ると、太陽光が発電しない夜間の電力使用は低炭素電力でまかなわれていないことになります。時間単位マッチングは、こうした「実際に使った時間に、低炭素電力が発電されていたか」をより厳密に確認する考え方です。

前述の「12か月以内の整合」は、証書などを目標の達成に算入するための最低限の条件(いわば年単位での整合)です。これに対し時間単位マッチングは、年単位よりも望ましい方法と位置付けられているものの、一定の比率を達成することまでは目標達成の条件とされていません※1※2。

一方で、カテゴリーAの企業は、年間の電力消費量が10GWh以上となる電力系統のエリア(活動プール)ごとに、時間単位マッチングの比率を報告し、第三者保証を受けることが義務付けられています(カテゴリーBの企業は任意)。また、時間単位マッチングの比率が一定の水準(2030年まで50%、2035年まで75%、2035年以降90%)を満たした企業を、SBTiのダッシュボード上で認定する任意の制度も設けられています。この認定を受ける場合は、カテゴリーBの企業も第三者保証を受ける必要があります※2。

時間単位マッチングに関する義務と任意の線引きを、企業区分ごとに整理すると、次のとおりです※2。

項目カテゴリーAカテゴリーB
時間単位マッチングの比率の報告(年間の電力消費量が10GWh以上の活動プールごと)義務任意
報告した比率の第三者保証義務任意(認定を受ける場合は必要)
一定の比率(たとえば50%)の達成目標達成の条件ではない目標達成の条件ではない
認定制度への参加(2030年まで50%、2035年まで75%、2035年以降90%)任意任意

変更点⑤ スコープ3:「67%ルール」から「重要カテゴリー」方式へ

V1では、スコープ3の排出量がスコープ1〜3の合計の40%以上を占める場合にスコープ3目標が必須となり、短期目標ではスコープ3排出量の67%以上をカバーする必要がありました※3。

V2.0では、この「67%ルール」に代わり、スコープ3のカテゴリー1〜14のうち、排出量の5%以上を占めるカテゴリーを「重要なカテゴリー」として目標の対象とする考え方が採用されました※2。また、通勤(カテゴリー7)など、企業の影響力が及びにくい一部のカテゴリー・活動は、理由を示したうえで除外することができます。

スコープ3の短期目標は、カテゴリーAの企業には必須、カテゴリーBの企業には任意です。目標の立て方は次の3つの方式から選択します※2。

  • 包括的な絶対量削減目標:スコープ3全体の排出量を残余排出量の水準に向けて削減する
  • 包括的なサプライヤー・顧客の整合目標:直接の取引先(Tier1のサプライヤー・顧客)のうち、科学に基づく目標を設定し、その達成に向けて進捗している企業の割合を高める
  • カテゴリー別・活動別の目標:特定のカテゴリーや排出量の多い活動に絞って目標を設定する

2つ目の「科学に基づく目標」について、基準文書では「移行中またはネットゼロに整合した(in transition or net-zero aligned)」取引先と表現されています※2。SBTiの認定を受けた目標に限るかどうかは、公表資料からは明確には読み取れません。

3つ目は、鉄鋼・セメント・輸送など、排出量が特定のカテゴリーや活動に集中している企業向けの方式で、低炭素な素材の調達を促すことがねらいとされています※1。カテゴリーに応じて、次のような目標の種類が用意されています※2。

目標の種類内容主な対象カテゴリー
排出削減カテゴリー単位で排出量(または原単位)を削減するカテゴリー1〜14
調達量の整合購入する素材や輸送のうち、低炭素またはネットゼロ整合のものの割合を高める1・2(素材)、4、6、9
サプライヤー・顧客の整合特定カテゴリーの取引先のうち、移行中・ネットゼロ整合の企業の割合を高める1、2、4、8〜11、13、14
製品使用の整合販売製品のうち、低炭素またはネットゼロ整合の製品の割合を高める11、13
製品廃棄の整合販売製品のうち、循環型の廃棄処理を前提に設計された製品の割合を高める12

たとえば、鉄鋼を大量に調達するメーカーであれば、「購入する鋼材に占める低炭素鋼材の割合を高める」といった目標を、カテゴリー1に絞って設定するイメージです。

また、V1では必須だったスコープ3の長期目標は、V2.0では任意となりました※2。

変更点⑥ ネットゼロ目標は「任意」に

V1のネットゼロ基準で認定を受けるには、短期目標・長期目標・ネットゼロ目標をセットで設定する必要がありました。

V2.0では、すべての企業に短期目標(スコープ1・2、カテゴリーAはスコープ3も)の設定を求める一方で、ネットゼロ目標そのものは任意とされています※2。ネットゼロ目標を設定する場合は、スコープ1〜3の100%をカバーする短期・長期目標に加え、ネットゼロ目標年以降に残余排出量を中和することが条件となります。

「ネットゼロ目標が任意になった」と聞くと要件が緩くなったように感じるかもしれません。しかし実際には、ネットゼロという長期の「宣言」よりも、目の前の5年間で確実に削減を進めることに重点が移った、と捉えるのが適切と考えられます。

変更点⑦ 「継続的排出責任」の新設

V2.0では、「継続的排出責任(Ongoing Emissions Responsibility)」という新しい枠組みが設けられました※1。

企業は削減目標に沿って排出量を減らしていきますが、ネットゼロに到達するまでの間は、毎年一定の排出が続きます。この「まだ削減しきれずに出し続けている排出量」(継続的排出量)について、自社のバリューチェーンの外での取り組みによって責任を果たすことを評価する仕組みです。あくまで自社の排出削減の「補完」であり、「代替」ではないと明記されています※1。

認められる手段

手段はカーボンクレジットの購入に限られません。基準では、次のような取り組みが対象とされています※2。

  • 検証済みの緩和成果:バリューチェーン外での排出削減、森林などの自然吸収源の保全・強化、炭素の除去・貯留など。事後に第三者の検証を受け、tCO₂e単位で測定されたものに限る
  • その他の気候への貢献:将来の緩和に向けた資金拠出、低炭素・ゼロ炭素技術の研究開発、気候変動への適応や損失と損害への資金拠出など

3段階の枠組み

  • 第1段階(任意の認定制度):継続的排出量のうち、どれだけの割合をカバーしたかに応じて、3つのレベル(ENGAGED/ADVANCED/LEADERSHIP)で企業を認定する。認定を受けるには、短期目標に対して十分な進捗があることが前提となる
  • 第2段階(2035年以降):カテゴリーAの企業に対し、炭素除去への支援を段階的に義務付けることが意図されている
  • 第3段階(ネットゼロ目標年以降):すべての残余排出量を中和する
認定レベル主な条件
ENGAGED継続的排出量の1%以上をカバー
ADVANCEDスコープ1・2の100%に加え、全体で10%以上をカバー
LEADERSHIPカテゴリーAは継続的排出量の100%、カテゴリーBは10%をカバー

※ENGAGEDとADVANCEDでは、カバーする排出量に見合う検証済みの緩和成果か、1tCO₂eあたり20ドル(ENGAGEDは推奨額)の拠出のいずれかが求められます。LEADERSHIPでは、1tCO₂eあたり80ドルの拠出と、検証済みの緩和成果の両方が必要です※2。

カーボンクレジットの扱い

カーボンクレジットを目標の達成(排出削減)にカウントできない点は、V1から変わっていません※2※3。継続的排出責任のために使ったクレジットや緩和成果も、目標の進捗に算入したり、排出量から差し引いたりすることはできません※2。

V1ではバリューチェーン外での緩和(BVCM:Beyond Value Chain Mitigation)は「推奨」にとどまっていましたが、V2.0ではこれが認定制度として位置付けられ、2035年からの義務化も視野に入った点が大きな変化です。

変更点⑧ 移行計画・評価・保証:「宣言」から「実行」へ

V2.0で特に強調されているのが、目標を「実行」する仕組みです。

移行計画の義務化

すべての企業に移行計画(Transition Plan)の策定が義務付けられ、取締役会など最高位のガバナンス機関の承認と、少なくとも5年ごとの見直しが必要となりました。公表については、カテゴリーAの企業は目標審査の完了後15か月以内に行うことが義務付けられ、カテゴリーBの企業は推奨にとどまります。ただし、スコープ1で排出原単位目標または資産移行目標を選んだ場合は、カテゴリーにかかわらず、目標審査の時点で公表する必要があります※2。

移行計画の公表の義務を、企業区分とスコープ1の目標の方式ごとに整理すると、次のとおりです。

企業区分スコープ1で排出原単位目標・資産移行目標を選んだ場合スコープ1で絶対量削減目標を選んだ場合
カテゴリーA目標審査の時点で公表(義務)目標審査の完了後15か月以内に公表(義務)
カテゴリーB目標審査の時点で公表(義務)公表は推奨

実施の優先順位(実施階層)

削減に向けた取り組みには優先順位が設けられ、次の順に取り組むこととされています※1※2。

  1. 活動レベル(直接的なアクション):自社の事業やバリューチェーンの中で、排出源そのものを減らす(省エネ、燃料転換など)
  2. 活動プールレベル(共用システム内のアクション):電力系統、ガスの導管網、原材料の調達圏、物流ネットワークなど、多くの企業が共有するシステムの中で対策をとる
  3. セクターレベルのアクション:1・2での対策が構造的に難しい場合に限り、自社の排出源と同じ種類の活動を対象に、地理的・システム的なつながりのある範囲で、業界全体の脱炭素化を後押しする対策をとる

3つの階層の違いは、同じ食品メーカーの例で考えるとわかりやすいと思います。

階層食品メーカーの場合の例
1. 活動レベル自社工場で省エネや設備の電化を進める
2. 活動プールレベル原料の農産物を調達している産地(調達圏)で、農家による肥料由来の排出削減の取り組みを支援する
3. セクターレベル産地での対策が難しい場合に、低炭素肥料の証書などを活用し、農業分野全体の脱炭素化を後押しする

2は、自社が実際に原料を調達している産地という「共用システム」の中での対策です。これに対し3は、その範囲の外まで広げて、同じ排出源(この例では肥料)について業界全体の取り組みを後押しする対策です。なお、1と3はSBTiの解説文書で示されている例で、2は理解しやすさのために補った例です※6。

また、3の「構造的に難しい場合」とは、技術がまだ商用化されていない、地域のインフラや規制が整っていない、といったケースを指します。単にコストが高い、社内の調達方針に合わないといった理由は該当しないとされています※2。

このほか、将来の削減を後押しする「準備的な取り組み」は、目標の進捗には算入できません※2。

「最善の努力」と障壁の開示

企業は「最善の努力(Best Effort Basis)」で目標に取り組むとともに、目標達成の障壁となる外部要因(政策や電力インフラの状況など)を透明に開示することが求められます※2。

サイクル終了時の評価と第三者保証

V1では、少なくとも5年ごとに目標を見直すことが求められていました※3。V2.0では、目標サイクルの終了後12か月以内に進捗評価を受けることが義務付けられ、カテゴリーAの企業はその内容について第三者保証を受ける必要があります※2※5。評価結果は、SBTiのウェブサイト(Target Dashboard)で公開されます。

企業は今、何をすべきか

移行スケジュール

V1からV2.0への移行スケジュールは以下のとおりです※1※4。

時期内容
2026年6月11日V2.0公表
2026年中V1(Version 1.3.1)での目標提出が推奨される
2027年2月1日V2.0発効
2027年第1四半期(予定)V2.0での提出受付を開始。以降、2028年1月31日まではV1とV2.0のどちらでも提出が可能
2028年2月以降V2.0のみ受付
2035年〜継続的排出責任の義務化(カテゴリーAの炭素除去への支援)を意図

なお、すでに2030年を目標年とするSBTを設定している企業は、2028年からV2.0に基づいて次期(2030〜2035年)の目標の準備を始めることが推奨されています※1。

今から準備しておきたいこと

V2.0への移行に向けて、企業は次のような準備を進めておくことが求められます。

  1. 自社の区分(カテゴリーA/B)を確認する:直近2年間の平均値で判定されるため、売上高・従業員数・排出量を確認しておく
  2. 排出量データの精度を高め、第三者保証に備える:カテゴリーAでは基準年データの保証が必要となる
  3. 電力調達の契約を見直す:証書の調達地域や発電設備の運転開始年など、新たな条件を満たしているかを確認する
  4. スコープ3の重要カテゴリーを特定する:排出量の5%以上を占めるカテゴリーを洗い出し、算定方法を見直す
  5. 移行計画を策定し、取締役会の承認プロセスを整える

まとめ

本記事では、SBTiの企業ネットゼロ基準V2.0について、従来基準からの主な変更点を解説しました。

V2.0は、ネットゼロ目標の任意化やスコープ3の「67%ルール」の廃止など、一見すると要件が柔軟になった部分もあります。しかしその一方で、5年ごとのサイクル評価、移行計画の義務化、基準年データや電力調達に関する第三者保証、証書の利用条件の厳格化など、「目標を実行し、その結果を示すこと」がこれまで以上に厳しく問われる基準となっています。

V2.0の発効は2027年2月ですが、データの整備や電力調達契約の見直しには時間がかかります。特に新たにカテゴリーAに区分される可能性がある企業は、早めに準備に着手することが求められます。

なお、具体的な削減経路などを定める「Methods, Metrics and Pathways」文書は、今後確定する予定です。今後の動向をチェックしていきたいと思います。


参考文献

※1 SBTi「Corporate Net-Zero Standard Version 2.0」(2026年6月11日公表)
https://files.sciencebasedtargets.org/production/files/Corporate-Net-Zero-Standard-version-2.pdf
(日本語版:https://files.sciencebasedtargets.org/production/files/Corporate-Net-Zero-Standard-V2-Japanese.pdf )

※2 SBTi「Corporate Net-Zero Standard V2.0 Criteria」
https://files.sciencebasedtargets.org/production/files/Corporate-Net-Zero-Standard-V2-Criteria.pdf

※3 SBTi「Corporate Net-Zero Standard Criteria Version 1.3.1」(2026年4月)
https://files.sciencebasedtargets.org/production/files/Net-Zero-Standard-Criteria.pdf

※4 SBTi「Corporate Net-Zero Standard V2」
https://sciencebasedtargets.org/corporate-net-zero-standard-v2

※5 SBTi「Corporate Net-Zero Standard Version 2 Launch Webinar Slides」
https://files.sciencebasedtargets.org/production/files/Corporate-Net-Zero-Standard-Version-2-Launch-Webinar-Slides.pdf

※6 SBTi「From Ambition to Action: Actions and Market Instruments in the Corporate Net-Zero Standard Version 2.0」
https://files.sciencebasedtargets.org/production/files/From-Ambition-to-Action-Actions-and-Market-Instruments-in-the-Corporate-Net-Zero-Standard-Version-2.0.pdf

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